■場所
人通りのある道
■人物
『俺』
■状況
気が立っているみたい
■本文
その時は、どうしようもなく腹が立っていた。目をつり上げ、眉をしかめて辺りをにらみ付けていた。道行く人はそんな俺をいぶかしげに見ていた。
その時は、足下に何があっても良かった。石ころでも空き缶でも、俺が蹴るべき物なら何でも。
そう思ってつかつかと歩いていたら、勢い良く何かを蹴ってしまった。ゴム鞠と砂袋のちょうど間くらいの感触を感じた。
俺はまるで気にしなかった。それが何であろうと構わなかった。しかし、俺の周りにいる人たちにとっては違った。
後ろの方で叫声があがる。それに応じて他の人間もざわつきはじめ、遠ざかるに反して俺は何か言い様のないもやもやを生じさせていた。
そして、誰かの手が肩をつかんだ。はじめ、それはただの幻惑かと思われた。次第にかかる力が強くなってきて、俺はようやく振り向いた。
「ちょっとあなた、待ちなさいよ」
そいつは気の強そうな、顔立ちの整った女だった。鋭く睨んだ女の視線は、重く淀んでいる俺の目を射抜いている。
「……あぁ」
俺は半歩下がり、女のつかんでいる手を解かせるように対峙した。気が立っているために俺の足幅は広く、今にも女に蹴りでも入れてやるような勢いだったと思う。
「子猫、蹴ったわよね?」
女は目をそらさず言う。俺はそれを適当に