■場所
公園
■人物
お父さんと光彦君
■状況
自転車の練習をしている
■本文
「ほら、あと少しだ!」
手を大きく広げ、男の人が呼ぶ。前方には自転車に乗った男の子。その運転は危なっかしく、案の定男の人のところに着く前に転んでしまった。男の人はとっさに助けようとしたが、間に合わなかった。
「あっ、光彦大丈夫か?!」
男の人は心配そうに声をかけた。男の子――光彦――は自転車の上に手を付いてしゃくり上げていた。
「……もう、やだよう」
光彦は消え入りそうな声で言った。それを聞いた男の人は光彦をゆっくりと立たせて、それから自転車を立たせて、光彦の視点に合わせて中腰になった。
「なんだ、もうやめるのか?」
光彦は頷いた。
「でも、昨日は『明日は頑張る』って言ったじゃないか?」
何も言わず、光彦は首を振った。転んだときにすりむいた膝小僧からは少し血がにじんでいた。
「こんなところでくじけてたら、隣のみゆきちゃんに笑われちゃうぞ?」
少し逡巡したあと、光彦は泣きながら口を開いた。
「でも、みゆき、ちゃんも、じ、自転車のれない、よう」
男の人は光彦の説得を諦めかけた。光彦は心底嫌がっているようだった。晴れ渡った空には薄雲がかかり、枯れ葉を散らしてゆく風は肌寒い。
「そうか……。なぁ光彦、じゃあどうしてみんなは自転車に乗れるのかな?l
男の人は光彦の頭を撫でながら言った。
「そ、それは、みんな自転車乗るの、上手だから」
光彦の返答は答えになっていなかった。男の人は小さな自転車に手をかけ、自分でまたがってみせる。
「それは違うだろ、光彦。父さんも自転車には乗れるけど、はじめから上手だったわけじゃないよ」
男の人――光彦の父親――はハンドルを握り、