■場所
なし
■人物
『僕』
■状況
従兄弟との出会いと別れ
■本文
初めて従兄弟と会った日。互いに親の陰に隠れてもじもじしていたのは最初の一時間だけだった。勇気を出して自分の名前を口にして、相手の名前を知り合った。顔に浮かぶ緊張は次第にほぐれてゆき、手を取って明るい外へ走り出した。
汗ばむ手のひら、その温かな感触にかすかな安らぎを感じ、僕たちは公園に行った。玄関を出るときに親からかけられた心配の言葉は早くも頭から消えて、目の前に広がる景色を見た。
それは、いつも見ている風景だった。けれど隣にいるのはいつもとは違う人。しかし、心が高揚していたからか、それとも子供だったからか、僕たちはこれまでずっと友達だったかのように笑いあうことが出来た。
日が落ちるのは早かった。従兄弟の肩をつかまえて鬼ごっこの終わりを告げたとき、従兄弟の目には真っ赤な夕焼けが映っていた。それを見て僕はやっと、お別れの時間を意識した。目をのぞき込んでいた僕を不審に感じ、従兄弟が困惑の声をあげた。
それから家に帰るまでずっと、従兄弟が僕の手を引っ張ってくれた。帰りたくないと言う僕の抗議の声は、背の高い従兄弟が制してくれた。そして、手のひらから伝わる温もりと離れたくなくて、僕は従兄弟の手を離さなかった。
再び、親の元に戻り付く。何か機械的なやりとりが頭の上で交わされて、僕はぬぐい去ることの出来ない恐怖を感じた。当たり前のように訪れる別れを直視できない状態にいた。
「じゃあね、バイバイ!」
元気な声が聞こえる。それは僕の耳に深く突き刺さり、僕の精神を叱咤する。でも、その時の僕には何も、何も従兄弟にしてあげられることがなかったんだ。
だから、僕はうつむいたまま何も言わず、親の服の袖を握った。だだをこねて親を困らせた。そんな事しか出来なかった。