■場所
どこかの田舎町
■人物
女と誠二さんと子供が幾人か
■状況
女が誠二さんを待っている
■本文
新緑の映える町の景色の中で、一人の若い女が木の下に座っていた。白いワンピースを着て麦わら帽子を被っているその人は、手元に目を落としていた。
そこにはたいそう古く見える懐中時計が一つ。時計の針は午後五時を差そうとしていた。女は溜息をつき、木の幹に背をもたれた。空はまだ明るかったが、流れる雲の影はうっすらと赤く色づき始めていた。
「また待ちぼうけかぁ……」
どこからかカラスの鳴き声が聞こえる。子供を呼ぶ声だろうか、それとも餌でも見付けたのか。楽しげに響くかぁかぁという声は、無遠慮に人の心に入り込む。
物憂げに目を伏せている女の横を、自転車に乗った男の子の集団が通った。
「あ、こいつまたこんな所にいるぜ」
「ほんとだ!」
女に聞こえるような声で言うと、男の子達は一斉に自転車を止める。ブレーキの甲高い音に眉をしかめた女は手元から顔を上げた。
「やーい、鬼さんこちら、手の鳴る方へ!」
「おしりぺんぺーん、あばばばば」
女は初め、すまし顔でそっぽを向いていた。
「悔しかったらここまでおいでー!」
「うわ、あいつ、昨日うちの犬が糞した所に座ってるぜ!」
「ほんとか!? うわー、えんがちょー、えんがちょー!!」
しかし、男の子達が次々と下品な言葉をまくし立てるうちに女の肩が震えてきた。
「……あ、あんたら……ええ加減にせんかい!! またあたしにケツ蹴られたいんか!?」
女が勢いよく立ち上がると、待ってましたとでも言うように、男の子達がとても楽しそうにきゃあきゃあ言って逃げていった。
「ったく、毎度毎度あいつらは何がしたいねん」
肩から力を抜いて、再び溜息をつく女性。その背後には何者かの影が近づいていた。
「へぇ、なんだか楽しそうだね」
落ち着いた声が女性に話しかける。
「いや、楽しいとかそんなことはあらへん。あいつら、あたしが彼を待ってるといっつもちょっかいだしてくんねん」
「そうなんだ、それは知らなかったな」
違和感を感じて女が振り向くと、そこには背の高い男が立っていた。眼鏡をかけていて、年齢は女と同じか少し上のように見える。
「あ……、せ、誠二さん!」
「うん」
女は目を見開いて、口に手を当てて驚いた。二歩あとずさり、それから苦笑いを浮かべて精一杯の虚勢を張った。
「ええっと、さっきの、見てた?」
「うん、見てたよ」
女の顔に勢いよく影が差す。それも、とびきり大きな影が。