■場所
道路
■人物
『俺』
■状況
バイトに間に合わない
■本文
「はぁ、はぁ、くそっ、間に合わない!」
俺は吐き捨てるように言った。走りながら腕時計を見ると、バイトのシフトが始まるまであと五分だった。余裕などは一切ない。
車の多い通りを抜け、交差点に出る。信号は赤だったが隙を見て横断した。そのあとで、いつのまにかショルダーバッグが肩からずり落ちているのに気付く。走る速度を落とさないようにそれを掛け直し、再び意識を前方へ向けた。
辺りは薄暗く、遠くの音ばかりが響いていた。犬の遠吠え、自転車のベル、電車の走る音など。姿は見えないのに、まるで目の前にいるようにそのものの音が聞こえる。
多分、遠くの音が良く聞こえる理由は、空気が冷えているからだろう。昔、学校の物理学で習った記憶がある。空気の温度差によって音が屈折し、暖かい季節には届いてこない音が聞こえると。