■一言
ホラー風?
■本文
始まりは、ほんの些細な感情だった。
虐げられる者への哀れみ。自制の利かない者への怒り。
いつの日か、自分の体の中でそれらを浄化出来るようになると信じていた。
そうでなければ、自分が壊れ、夢を見ながら生きてゆくと信じていた。
けれど、違った。現実は自分の考えていたものとは反対方向に進んでいった。
夜が来るたびに狂おしく叫び、闇にまぎれて人を殺める。木々のざわめきを頼りに歩き、恐怖の声に歓喜を覚える。
「ぬし達の叫びを聞くが良い! 我は世界を代行し、きさんらを処刑する!」
怯え、戸惑い、悲しみ、痛み。様々な負が漂っていた。逃げ惑う者たちを執拗に追いかけ、手にしたナイフで襲い掛かる。すると面白いように獲物が捕獲できる。
もちろん、すぐには殺さない。世界の経験した痛みはこんなものではないのだ。
不断は手から切り裂いてゆく。携帯している道具を駆使し、獲物の自由を奪い取る。両手足、胴、首。六箇所を動けなくしたら、耳の辺りの髪の毛を切り、恐怖感をあおる。
涙が出てきたあたりで、片方の親指を切り落とす。獲物は血が出るほど唇を噛むか、大声を上げるか、そそうをするかのどれかの状態になる。
そうしたら、切り取った親指を獲物の口内に入れ、咀嚼するように言う。言う事を聞かない場合には、従うまで一本ずつ指を切り取ってゆく。これで大抵の獲物は自らの指を咀嚼する。このときの獲物の顔を見ると、自分は世界の役に立っていると自覚できる。
肩慣らしが終わったら、新たな道具を取り出す。世間では栓抜きと呼ばれている代物だ。単純な作りの物ではなく、ワインを飲む時に使う螺旋状の物を使う。
まず、獲物の服を剥ぎ取る。上半身が露出したところで、栓抜きの螺旋状の先端を獲物の腹にあてがう。獲物の目はまだ生かしてあるから、獲物には自分が何をやろうとしているのかが把握できる。つまり、これから腹が金属に貫かれることが予想出来る。
全身を拘束されていて動けないくせに、獲物はここぞと言わんばかりに暴れる。特に腹をよじり、栓抜きの牙という鋭利な悪魔から遠ざけようとする。しかし、体力を消費するそんな行動がいつまでも続くわけはない。自分は獲物が疲れて動けなくなるまで辛抱強く待つ。
半日もすると獲物は動けなくなる。精神の方も定かではないらしく、白目をむいたり、自分に恐怖の視線を向けたりと忙しくなる。
この頃が一番良い。反逆者という戒められるべき存在さえも、生命の欠片としての本能を全うしようとする。そのあまりにも大きなギャップが自分の心を奮い立たせ、これから始まる饗宴へと導いてくれる。
さて、目の前には熟成した獲物が一人。手元には様々な刃物。
今日も、最高級のディナーが用意された。食事作法など一切ない。
お気に召すよう、自由に召し上がれ――。