■場所
駅のホーム
■人物
『俺』とおかしな電話の相手
■状況
いたずら電話がかかってきて困っている
■本文
「もしもし?」
人の少ない夜中の駅のホーム。電車の中でかかってきた誰のとも分からない電話。それが電車を出たあとにもしつこくかかってきたので取ることにした。
「十和田君!?」
「……そうだけど」
やけに威勢の良い第一声だった。
「良かった、出てくれた〜! 間に合わないかと思ったよ」
どうもよく分からない。電話の主は一人で勝手に様々なことを理解しているようだ。
「それでさ、明日の件だけと……」
「ちょっと待て」
強めに言って、相手の威勢をくじく。階段をのぼっている最中だったので、前にいる人が勘違いして振り向いた。
「……えと、なに?」
電話の主が携帯の向こうで萎縮する様子がした。
「も、もしかして、やっぱりやめにした……なんてことは」
「ちがう。そもそも話がかみ合ってない」
やっぱりやめにしたなどと聞こえたが、話を先に進めるために無視する。
「一つ聞きたいんだが……お前はいったい誰だ?」
俺は、改札に定期をかざしながら問いかけた。そのまま乗り換えのために別の改札へ向かう。
「へ? 僕が誰かって……やあ、まさか君ちょっと面白いこと考えてる?」
「まるで考えてない。本気でだれだか分からない。携帯のメモにも登録されていないから名前も出てこない」
有無を言わせないようにきっぱりと言い放った。
「……そこまで、きつく言わなくても」
すると、電話の向こうから悲しそうな声が聞こえた。俺は再度改札に定期をかざし、いつも通り車両の四両目を目指す。
「とにかく、俺はそれが判明しない限りこれ以上何も話さないぞ」
当たり前だった。聞いたことのない声、見たことのない電話番号、電車の中での度重なるコール。そんな礼儀知らずに話す物など本来なら何一つ無いのだ。
「分かったよ、言えば良いんでしょ、言えば……」
しぶしぶという音が聞こえてきそうなくらい仕方なしに主は言った。俺はホームの階段をのぼりきり、これから四両目を目指そうというところで、なにやら見たことのある顔が公衆電話に張り付いて何かしているのを見付けた。
「おーう、根峰、こんなところでなにしてるん?」
携帯電話など無視し、気の置けない友人に明るく話しかける。
「……あっ、十和田君! ちょうど良かった、さっきの話なんだけど」
「さっきの話? なにそれ」
根峰の言葉で携帯電話の相手を思いだし、受話部を耳に近づけたが、いつの間にかあのおかしな相手からの電話は切れていた。
「何だったんだ、あれは」