2007年9月1日


場所

田舎町

人物

父と娘の二人

状況

心地良い日差しの中を二人が散歩している

本文

うららかな午後。涼しい風がそよぎ、道端に生えている草木たちの頭を撫でてゆく。見上げる空までこの陽気を祝福しているように透き通っていた。

町を流れる細い川に沿って桜の木々が並んでいるが、その間には二つの影がゆれていた。

「ねぇおとうさん、どうして桜は夏になると緑になるの?」

二つの影の小さいほう、すなわち小さい頭に麦藁帽子を被った女の子が不意に横を向いて口を開いた。

「それに、ともちゃんが言ってたけど、夏の桜には毛虫がいっぱいいるって。そんなことないよね?」

女の子は終始あどけない口調で、それでいて何者にも邪魔をさせないような響きの声――本人は意識していない――で続ける。対して、女の子の視線の先にいる人、すなわち大きなリュックを背負って小さな女の子と手を繋いでいる四十歳くらいの男性は、すぐには答えようとしない。

「ええと、十余三(とよみ)はどうしてだと思う?」

「えっ、ええっと。うーん」

自分から訊ねたはずなのにいつの間にか自分が訊ねられる側に廻ってしまうとは。十余三と呼ばれた女の子は無意識の内に眉をしかめていた。

「緑っていうのは、葉っぱの色だよね? それを」