■場所
海岸
■人物
『俺』と見知らぬ女性
■状況
海外で探し物をしていたら話しかけられた
■本文
「あ、あの」
うしろから声がした。しゃがみながら振り返ってみると、そこには背の高い女の人がいた。
「ああ、いや、ちょっと探し物をしてまして」
中腰になりながら首を傾げている様子からして、俺の事を聞いているのだろうと思った。
「あ、そうなんですか……」
女性は、目を軽く見開いて答えた。続きがあるのだと思っていた俺は不自然な格好をしたまま気長に、女性の服のすそと顔とを交互に見ていた。
しばらく経っても何もなさそうだった。いつまでも異性の体を眺めているなどという不躾な真似は避けたかったので、そう思った次の瞬間には言葉も無くこれまでの作業を再開させていた。それでもうしろでは砂を踏みしめる音――女性の歩き出す音――が聞こえない。
波が俺の膝まで押し寄せてきた。引くときに持っていかれる砂の感触は、背後に人がいるだけでこんなにも怪しく感じられるのだろうか。
俺達の間に言葉が無くなってからどれほど経っただろうか。少なくとも、空の色や海のしけ具合には変化が無いくらいの時間しか経っていない。
「あ、あのう」
初めよりも弱気な声が波音の狭間に響いた。少しハスキーのかかっているその声は、昔にどこかで聞いたような感じがする。
「……ええと、どうしたんですか?」
改めて、今度は立ち上がりながら問いかける。探し物はしばらく休憩して、何か聞きたいことのあるこの女性の話に付き合ってあげたいと思う。
「あの、実は、その、道に迷ってしまって……」
それは、とても単純な台詞だった。海から吹きつける風に靡く髪を押さえながら、女性はそんな事を言うのだった。
「ああ、ごめんなさい。僕の早とちりでしたね……」