■場所
公民館
■人物
中年の男性と三十代くらいの男性
■状況
廻らない扇風機を直しています
■本文
「あー、ありゃあだめですなぁ」
額の汗をハンカチで拭きながら、作業服を着た中年の男が言った。その隣にはTシャツを汗でぬらした三十代と見られる男が、中年の男と一緒に上を見上げていた。
「やっぱり、修理が必要ですか……」
二人の声は、あまり大きくはない公民館の集会スペースに響いている。床は体育館のような板張りで、部屋の正面には小さなステージがある。そのどちらもあまり手入れが行き届いていないのか、薄く埃が積もり、二人の足の裏は今頃黒く汚れていることだろう。
「まぁ、簡単なものです。天井に設置されているとしても所詮は扇風機ですよ。部品を取り替えればすぐに直ります」
高いトーンで分かりやすく作業的に説明した中年の男は、きびすを返して一旦部屋の入り口まで戻り、置いてあったかばんの中から幾つかの機材及び部品らしきものを手に持った。同じく入り口付近においてあった脚立をさらに脇に抱え、部屋の中央に戻ってくる。三十代の男はそれを黙って見ていた。
「うーん、これで届くかな」
中年が心配そうに呟いた。広げて設置した脚立は高さが二メートルより少し長い程度だ。
「……あら、だめだ」
誰が見ても、脚立から天井の扇風機までは届きそうにない。中年は頭の中で、開いたままの脚立の一端を天井に突っ張らせてどうにかできないかを考えたが、危険性を考慮した結果、一瞬にして廃案となった。
「うあ、まるで届きそうにないですね……」
三十代も眉をひそめた。彼も頭の中で、自分が開いたままの脚立の一端を支えていればどうにか中年の手を扇風機に届かせることくらいは出来るんじゃないかと考えたが、自分にはそんなに力がないという理由から、あえなく廃案となった。