2007年9月17日


場所

空港

人物

子供とその母親

状況

ロビーでかけっこをしている

本文

人気(ひとけ)の無い空間。にぎわうときには本当にたくさんの人が集まるこの場所は、今だけは人が殆どいなかった。視界の届く範囲で見回したとしても、搭乗受付らしい場所に老夫婦が一組、たくさん並んでいる待合用の椅子の中にビジネスマンが一人だけしか見当たらない。飛び立つ飛行機の音も、どこか空虚な響きをしていた。

やがてビジネスマンが立ち上がり、いじくっていたノートパソコンをかばんにしまってどこかへと歩いていった。既に老夫婦はいなくなっている。すなわち、様々な便の詳細を知らせている電光掲示板を見る人間が一人もいなくなってしまった。搭乗受付にいる係員の女性もあくびをする程だった。

そんな、滅多に見られない光景の中、それは突如として現れた。空っぽのロビーに入り込んでくる人間らしさ、パタパタと靴音を鳴らし、リズム良く、全力疾走してくるそれは、一人の子供であった。

「おかあさーん! 誰もいないよー?」

ロビーの中心辺りで走るのをとめた子供は、頭に野球帽をかぶり、クーラーなど物ともしない半ズボンをはいていた。Tシャツにはなにやらキャラクターの絵がプリントされているが、永い時間使われているせいか、それは随分とくたびれて見えた。

「はいはい、走っちゃダメよ、他の人の迷惑になるわ」

ロビーに良く通る柔らかい声の先には、ベビーカーを押しながら歩いてくる女性の姿があった。この女性が先程の子供の母親であることは、周囲の様子と彼女の言葉から容易に分かることだった。

「でも、誰もいないよー?!」

再び子供――少年――が大きな声で言う。母親は改めて辺りを見回してみる。すると、本当に自分たち以外に人がいないということに気付いた。

それから母親は搭乗受付で事務処理を済ませ、二人で待合用の椅子に座って電光掲示板を眺めていた。少年は時々、その体からすると随分と小さなベビーカーの中に入り、リラックスした表情を見せていた。恐らく、母親が誰も乗っていないベビーカーを押しているのは息子のためなのだろう。少