■一言
今回は良く分かりません。
■本文
どんな時だって、あの人は私に優しくなかった。見た目はにっこりと微笑んでいたが、その目の奥深くには私を見下す巨大な闇が潜んでいた。私はその暗闇に引きずりこまれないように努力し、今は開放されていた。
例えば、朝ご飯のテーブル。ご飯茶碗と汁椀の手前にちょこんと置かれている一組の箸を見る時に、私の感情は雑音を立てた。右利きの人に都合よく置かれたその箸は、私には都合の悪い置かれ方をしていた。あの人は、そのことを知っているのに毎朝あのように箸を置いた。私が指摘していたのは最初だけ。あとは無駄だと思い、私はあの人の暗闇の奥に存在する黒い人格の事を恨んだ。
例えば、二階にある荷物。私の部屋は二階にあったから、時々あの人は私に向かって、世間一般で言うところのお手伝いというものを言いつけた。もちろん、表面上はとても穏やかに頼むのだ。ごめん、アレを持ってきてくれないかな。一階にいるときには大抵テレビを見ているので、私はこう答える。あと十分でこれ終わるから。
そして、十分が経過しても、私は荷物をとりに行かない。話し半分で話を聞いているから忘れてしまったのだ。
二十分ほど経って、バラエティー番組は終わった。暇になったので宿題でもやろうかと思い席を立つ。何か、頭の中に引っかかるものがあるけれど、気にならない。
十分ほどで宿題に飽きて、一階に下りる。目的は無い。なんというか、どちらかというと手が洗いたい。
「ありがとう」
あの人の声がする。洗面所に入るためにキッチンを通ると、あの人がニコニコしながらこっちを見ている。
思い出した。しかし、私の手には、何もない。あの人は、一体何に対してお礼の言葉を言ったのか。それとも、何か別の意図があってそんな事を言ったのだろうか。
まぁ、どちらにせよ関係ない。