■場所
夜の小学校
■人物
影と闇
■状況
何かよからぬ予兆のような
■本文
「ふふ、相変わらず街は騒がしいわね」
天空に満月が浮かぶ漆黒の夜。降りそそぐ月光に輪郭を得て、一筋の影が建物の屋上に浮かんでいた。学校と呼ばれているその建物は、白昼に溢れている人間らしさを微塵も感じさせずにそびえたっている。
「さようでございます」
影の言葉に音も無く反応したのは、影よりも一回り大きな闇だった。丸くうずくまっているような闇は、やがて立ち上がるように縦に伸び、月夜の空に輪郭を現した。
「……ふん、遅いじゃないのアルディ。今までは弟の世話でもしていたの?」
「……さようでございます、お嬢様」
引き締まった空気。下界の言葉では秋と表現する気候の夜は、風さえも微量に闇の素質を含んでいるように思える。
「なら、いいわ。……ほら、あなたも見て御覧なさいよ。素晴らしい邪気だと思わない?」
お嬢様と呼ばれた影は腕とおぼしき部分を光の散らばる方へと示し、その顔に笑みを浮かべた。しかし、それを笑みと表現するには、一つの色の中に二つ以上の色が見出せるほどの色覚が必要な程、あまりに曖昧な影の動きとしか判別出来なかった。
「ほむ……、お嬢様もお目が高い、いえ、こういうときには目ざといと表現するのでしたかな?」
アルディと呼ばれた闇が、自らの濃度を一瞬だけ薄くして言った。身が震えるくらい面白いものでも見たというのだろうか。
「そうね。で、あなた、今日こそは私に付いてくるつもり?」