■場所
寺
■人物
猫が一匹
■状況
月夜の晩は風が心地良い
■本文
ここには誰も居なかった。昼間の日差しが強かったせいか、寺の縁側には木の香りが漂っている。
月の光に姿を映し、一匹の猫が居た。そいつは体を横たえて、心なしか頭を持ち上げて、空だかその辺りの風景だかを眺めている。
そいつは三毛で、だから恐らくメスの猫で、しかし周りには他の猫の姿は無い。誰かの家で飼われているのか、それとも野良猫のお姫様か。夜遅くまでこんな所で遊んでいるなんて、よほどの冒険好きと見える。
遠くで車のクラクションが鳴った。涼しい秋の夜空には良く響く音だった。縁側に寝転がっている彼女はあくびを一つして、寝返りをうつ。
そよ風が吹いて、草木を靡かせる。まだ彼女は動かない。くたびれているのかそれともここが好きなのか。いっこうに動こうとしない。
やがて風も止む。虫の音が主張を始める。寺は墓よりも高い位置にあるので、鈴のような虫のコーラスは良く聞こえた。
不思議なことに、このとき同時にカラスの鳴き声が聞こえた。