■場所
駅前
■人物
『俺』
■状況
駅からの帰り道
■本文
何の変わりもない夜だった。一段と寒さを増した風が吹いていて、そろそろたんすから手袋を引っ張り出してこなければいけないと思う。空を見上げても光一つない曇り空で、それは冬の景色の到来を予期していた。
別に、こういうのは悪くないと思っている。ぎらぎらと光が眩しい夏に比べて冬の薄暗さは寂しいという人もいるが、俺はそうではない気がした。冬はもちろん寒いし暗いし、太陽もどこかよそよそしい。しかし、だからこそ暖かい布団が心地よいし、コタツに入って食べるみかんもおいしいのだと思う。
そんな事を無意識に考えていた。足はいつものように動き、駅から家までの道のりをなぞっていた。たまに街灯の下に来ると地面が照らされるが、それ以外は真っ黒な地面だった。商店街は寂れているし、駅から直線の道を通る車は少ない。車や自転車は皆、新しく出来たバイパスの方へ進む。だからこの道は騒がしくないし明るくもない。気付かずに俺は地面の空き缶を蹴って、その転がるときの空虚な音が辺りに響いた。
シャッターの閉まる音がして顔を上げると、本屋の店員が店内から顔を覗かせていた。俺の歩いていることは分からなかったみたいで、すぐに顔を引っ込めて残りのシャッターを閉める。がらがら、がらがら。また一つ、夜に近づいたと思った。
本屋を過ぎた。マンションまではもう少しだ。突然、駅から徒歩七分、という売り文句の書かれた広告を思い出す。鮮やかなその印刷物は、俺の人生を少しは変えてくれたのだろうか。
信号が役に立っていない交差点を左に曲がり、道の先に現れる高い鉄塔を見据えた。そのてっぺんにはちかちかと光る赤いものが一つ。今日帰ってきてから初めて見た空の光は、飛行機やヘリコプターのためのもの。決して、俺などの歩行者のために作られたものじゃない。
けれど、