■場所
駅の立ち食いうどん・そば屋さん
■人物
うどん屋の主人とか
■状況
昼時には随分とお客さんが来る
■本文
「いらっしゃいませ」
客がまた一人入ってきた。その人はカウンターに小さな紙切れを置いて「うどんで」と言うと仏頂面のまま適当な席に座り、それから思いついたように水を取りに行った。狭い店内にはめんつゆのおいしそうな香りが漂っていたが、立ちながら麺をすすっている人の顔はおいしいものを食べているようには見えなかった。
先ほどの客のうどんが出来上がった。店員は「できましたよ」と言ってカウンターに器を置く。客が器を受け取りに来るまでの短い間、店員は横目でその客の様子をうかがっていた。恐らく、器を長い間カウンターに置きっぱなしにされるのが迷惑なのだろう。店員がその旨を注意しようと口を開きかけたところで客が現れ、無言で器を抱えていった。
この店には店員が三名いる。カウンターの前に位置している者、調理を担当しているもの、客からはほぼ見えない位置にいて何をしているか分からない者。三人ともおそろいのエプロンと頭巾を身に付け、カウンターの前にいるもの以外は二人とも眼鏡をかけている。
しばらくしてまた別の客が入ってきた。殆どの客が着ているように、その客も背広を着ていた。その客はカウンターに紙切れを置いてからネクタイを緩め、ため息をついて、小さな椅子に腰掛けた。
こんな状態が午後一時半近くまで続く。土日祝日は明らかに客が少ないが、それでも店の半分以上の席が埋まる。