■場所
沼
■人物
兄弟
■状況
沼にいる亀を見ている
■本文
「ねぇお兄ちゃん」
鉄柵に乗り出している弟が、なにやら指を差して俺を呼ぶ。
「あそこに泳いでるのって、亀さんだよね?」
弟の輝くような顔につられて俺も沼の中心辺りを眺める。すると、弟の言うように、そこには一頭の亀が顔を出してゆうゆうと泳いでいた。
「ああ、あれは亀さんだね」
「やっぱり! この沼にもいたんだね、亀さん」
弟の顔はさっきからずっと笑顔のままだ。
「ああ、でもあんまり大きな声を出すと逃げちゃうかも」
「あっ、そうだよね……、あれ? 亀さんがいない……」
弟の視線を追うと、先ほどまで見えていた亀の顔が見えなくなっていた。恐らく水中に潜ったのだろう。
「ほんとだ。潜っちゃったのかな?」
「うん……」
亀が見えなくなると途端に弟の元気が無くなった。この沼へは二人して釣りをしに来たのだが、これではまるで亀を見学しにきたみたいだ。
「亀さんは、あんまり俺達には姿を見せないんだ」
「どうして?」
俺は、かつて亀について色々と見たり聞いたりした事を思い出しながら、話をした。
「俺も甲羅干ししてる亀さんを見たことがあるけど、そのときも近くに行ったらすぐに首だして水の中に潜っちゃったんだ」
「甲羅干しってなに?」
「甲羅干しってのは、亀さんが首と手足を引っ込めて、太陽にあたることだよ」
「へぇ、あったかそうだね」
少しだけ弟が笑顔を取り戻した。
「それに、小さい頃から飼ってあげればなつくけど、自然の亀さんはあんまりなつかないんだって」
「どうして?」
小さい頃の俺も、今の弟のようにたくさんの質問を親にしたのだろうかと、少しだけ考える。
「それは……、仲良くないからだよ」