■場所
カレー屋
■人物
コンビニに勤めている二人は付き合っている
■一言
不倫か離婚したのか分からない文章を書くのは良くない
■本文
外で食べるカレーには、どうしてこう中途半端に崩れた肉が入っているのだろう。何も柄の描かれていないスプーンでルーをすくい取ると、ぼそぼそに分解した牛肉が見え隠れした。それに、後から入れた感じまんまんのジャガイモはどこか角ばっていて、口に入れるとそのとんがりが気に障る。
カウンター席の幾つかあるカレーショップの中、テーブル席はきちんとそれなりの面積に設置されているにもかかわらず、私にはどうしてもテーブル席の方が堅苦しいと思えてならない。人の少ない昼下がりの時間帯、いつもは他の客がいて座れない場所に座るとこんな事を考えてしまった。
意識を目の前のカレーに集中させる。どの角度から見てもカレー専用に作られたのであろう皿は平らで、カレーはとても均等に皿の隅々にまで流れこんでいる。
「おい、食べないのか?」
啓二(けいじ)が、緑色の野菜がのっているカレーから顔をあげて聞いてくる。
「ううん、ちょっと熱そうだったから」
冷ましていただけ。そこまでを含ませて、私はいよいよカレーを口に運んだ。水のようなカレーはするりと私の体の中に入り、そのまま胃の中に落ちた。まるで抵抗感のない食べ物だと、私は目の前の茶色い食べ物を認識した。
今日は久々の外食だった。それも、それが目的でする外食ではなく、他の目的があって従属的にしなければならない外食。
――たまには映画でも観にいくか?
――そうね、最近は映画には行ってないですものね。
啓二が誘いの言葉をかけたとき、私はちょうどレジの中身を点検しているところだった。売り上げとレジの中身を比較し、間違いが無いかを厳重に確認する。……とは実際には名ばかりで、私たちの勤めているコンビニなどでは大きなミスなどしない限り金銭の事故や事件は発生し得ない。
――良いことはなるべく早めにと言うことで、次の日曜日はどう?
――私は平気ですけど、店長は大丈夫なんですか?
店の奥で伝票整理をしていた啓二が肯定の言葉を発する前に、私はその気配でなんとなく大丈夫なのだなと半ば確信に近い勘を感じていた。
――俺は平気、店はあいつに任せておくから。
あいつ――啓二の息子の卓郎くん――は、既に大学をでて就職戦線から離脱し、今は流行のニートとかいう領域にいるらしい。
――でも、先週の月曜日にも出かけましたよ?
客のいない店内ですらも私はきちんとした職場だと考えている。だから、ここで啓二を呼ぶときには、たとえ啓二が私の体に触れているとしても『店長』とすることに決めていた。
――平気へいき、ちょっと給料弾むって言えばあいつは手伝うからさ。
そうして、五日と半日の時間が過ぎて私はいまカレーショップのテーブル席に治まっている。
五日と半日。それは一体どれほどの時間だったろうか。朝が来て昼が来て夜が来て寝ておきる。気付いたら啓二の運転する車の助手席にいて、私はこれから観るのであろう映画について前もって調べてきた事を楽しげに話していた。それが今から――店内の時計と啓二の車内時計の正確さが一致していれば――大体二十分前のこと。