■場所
廃校舎
■人物
何者かを追っている男(しかし、男だとはどこにも書いていない仕様)
■本文
窓枠に積もった埃を見ていた。それを指先ですくうと、ざらざらした感触と共に灰色の層が削れてゆく。今まで誰にも触れられることのなかったものが、今まさに男の手によって崩壊している。
ふと男が窓の外に目を向けると、それまで雨に濡れていた窓ガラスのくすんだ色が、妙に明るみを帯びていた。建物の上空に広がっていた雨雲が晴れ、日差しが差し込んだのだ。湿気った空気に停滞していた輝きは水滴の一つに入り込み、反射して男の頬を少し照らした。
床の軋む音がして、遅れて空気が震えた。廊下の向こう側で何者かの気配が揺れて、空気を伝わり男の所までやってくる。男はそれに一瞥をくれただけで、再び窓枠の埃に意識を集中させた。
今まで誰も訪れることのなかった場所。かつては子供達の遊ぶ声や時をしらすチャイムの音などがこだましていた場所。
ここはまるで棺桶の底のようだと男は思った。建物の身体を支える木材は徐々に朽ち、建物の精魂を支える人々はとうに退き、雨や風にさらされながらこうして突然の訪問者の棺桶となる。
そろそろ行かねばならない。革靴の底で床を一度