2008年3月27日


一言

眠いです

本文

所員達があわただしげに自分の机の前をうろついていたり書類を整理していたりする。時刻はもう午後三時を回っただろうか。私は事務所のほぼ中央に置かれている応接セットに腰を下ろして今回の客の相手をしている。

歳は四十半ばというところか。黒い背広を着て真剣そうに話す彼氏は、手に一枚の写真を持っていた。そこには、十年前に結婚したというひどく美人の女の笑顔が写っていた。

「ええ、最近どうも様子がおかしいと思うんです。私が家に帰ってもおかえりと言ってくれなかったり……」

彼氏はしきりに自分の感じている違和感をあれこれとしゃべっている。一つ話し終わるごとに憂鬱そうな顔をして、溜息混じりに次の一つを話し始める。私はそれに適当な相槌を打ちながら、彼氏の人間性を抽出しようと試みていた。

彼氏が依頼してきたのは身内の身辺調査だった。配偶者に対して行う時のみ、それを浮気調査という。

ひとしきり違和感という独りよがりになりがちな感情を話し終えると、彼氏は手に握った写真を見やり、最後の溜息をついた。

「まさかとは思うんですが、私も面と向かって問いただすのは気が引けまして」

言い方は凝っているが、要は面と向かって問いただすだけの勇気がないのか、もしくは配偶者との信頼関係がないのだ。彼氏の場合は少なくとも後者ではないと思われるが。