■場所
埠頭って言うんでしょうか
■人物
様々なものに嫌気が差している人
■状況
海を眺めて夜を明かす
■本文
家には帰りたくなかった。今日は父親が家にいる。それなのにわざわざどうして家に帰る必要があるのか。私は自分に言い聞かせて夜の繁華街を歩いた。
ぎらぎらした店をいくつも通り過ぎて、だんだん人気がなくなってくる。電気のついていない建物が左右を占め、近くで野良犬だか何かのうなり声がした。薄ら寒い道を抜けると、視界から様々な物がなくなった。海だ。
向こう岸に立ち並ぶビル達。まだ休まない人々が存在を主張する黄色く光る窓。私はその中の一群の、明かりの形が文字か記号かに連なっているものを探してみた。でも、明かりが都合良く文字か記号かの形になっているはずがない。ああいうのはテレビの中でか、海の向こうの人たちが集まってやることだ。この国の人たちが示し合わせたように誰かを出し抜くためだけに部屋の明かりを操作するわけがないのだ。
アスファルトの地面に腰を下ろす。冷たいが心地よいと感じた。潮の香りを含んだ風が髪を揺らして、またどこかへ走り去った。
夜が明けるまであとどれくらいだろうか。思うがしかし、腕にかけた時計は見ない。別に、あとどれくらいかかるかが知りたくて思ったわけではなく、ただ単に思っただけだ。言葉としての意味があるわけではなく、言葉としての音がないわけではない。そんな程度。
しばらく何も考えずにたたずんでいた。海の風のせいで徐々に体が冷えてきて、さすがに夜明けまでは保たないかと思い始めたとき、背後で何かがうごめく気配がした。私はとっさに振り向いて、年頃の女としての危機感を急いで意識の表に引っぱり出した。
目つきをきつくして睨み付けた先。意外な物に私は唖然とした。
かすかな視界の中、ぼんやりと浮かび上がるシルエットは、地面に置かれた白い紙コップのように見えた。その下にはアスファルトではない別の物の色がある。
視線を上にあげてさらに暗闇を探る。しかし、大した光もない中で遠くの物が見通せるほど私は目が良くない。仕方なく意識を近くのコップに