気が付くと、自分は何処かにいた。ここが何処だか解らないが、とりあえず現実でない事だけは、解った。足元が透明で、けれどガラスの上に立っている訳ではなくて、ぽっかりと、そこから現実≠ェ見えた。 「おかえり。」 不意にそう言われ、声の主の方に目をやると若い、黒のスーツ姿の男がいた。おざなりに頬杖をついて、足を組んで。だけど机や椅子は、そこになくて。 「誰?」 知り合いではない。少なくとも、覚えはない。というより、こんな所でおかえり、なんて言われる筋合いはない。 「……ひみつ。」 しばらく黙って、口を開いたかと思うとこうだった。 「けち。」 無遠慮なセリフも、何故だかすらりと口から出た。ここは、現実ではない。そしてぼんやり何処だか解ってきた。 「こっちだ。」 気が付くと、黒スーツの男は少し遠くにいて、手をこまねいている。自分がここがどういう所だか、悟ったからだろうか。 「……わたし、死んだの?」 未練も悔いも、恐怖もなかったが、とりあえず確認はしておきたかった。だが男は離れた所からじっと見ているだけで、何も言わない。 「何かしろって言ってる訳じゃないわよ。」 だが何も、答えない。 「何よぉ、教えてくれたっていいじゃない!けち!悪趣味黒スーツ!」 「……紫とか、白とかの方がいいか?」 男はどうでもいいところに返事を返してきた。男にも、何か事情やルールがあるのだろうかと、むっとしながらもぼんやり思った時、ふと、男は下を指さしてきた。 暗い、箱の様な部屋。夜更けというのか、朝方というのか、迷う時間帯。そこには自分が眠っている。鼻から、口から、腕から、色んな管を突っ込まれて、不細工な。 「…………ねぇ、ここと下と、どっちがまぼろし?」 また黙って答えないのかな、と思った時、どこか笑う様にさあね、と男は言った。 もう朝が来ても、起きられないんだな、と思う。 いや、もう朝まで寝ていないんだ。 |
短いのをやろうとすると、甘々ネタか、別れネタか、 死にネタくらいしか思いつかないので。 |